Hồi 1 – Phần 1 私、佐藤ケンジにとって、世界は数字と確率で成り立っていました。父が亡くなったあの日以来、感情という曖昧な変数は信用に値しないものだと学んだのです。私は古生物遺伝学という、死者と対話するような分野に身を置いています。過去のDNAを解析し、生命の設計図を読み解く。それだけが、私にとって確かな真実でした。 六ヶ月前、すべてを変える一本の骨が私の研究室に届きました。送り主は、友人で優秀な考古学者である田中亜由美。彼女は、日本の北アルプスの深い氷河の中から、およそ一万五千年前に生きたとされる古代人の右大腿骨を発見したのです。それは、驚くほど保存状態の良い標本でした。氷に閉ざされた時間は、細胞をそのままの状態でフリーズドライしてくれたのです。 「ケンジ、この骨は何か変よ」亜由美はビデオ通話越しに、その発見の興奮と同時に、ある種の不安を滲ませていました。「普通の古代人骨ではないわ。まるで、生きている間に、何かを『書き込まれた』ような違和感があるの」 私は彼女の直感を一蹴しました。「亜由美、考古学的な直感は科学じゃない。骨は骨だ。重要なのはそのDNAが何を語るかだよ」 私はすぐに分析に取り掛かりました。抽出したDNAは驚くべき純度でした。初期分析では、この人物が現代人とは異なる分岐点を持つ、失われた系統の人類であることが示されました。しかし、真の異常はゲノム配列の深い部分に隠されていました。 それは、ノンコーディングDNA、つまり「ジャンクDNA」と呼ばれる、遺伝子情報を持たないはずの領域で発生していました。 通常、ノンコーディング領域は反復配列や機能不明の配列で満たされています。しかし、この標本のDNAには、まるで精巧にプログラムされた電子回路のように、異常なほど秩序立った反復パターンが存在していたのです。 それは特定の四つの塩基(A, T, C, G)が、信じられないほどの規則性をもって、幾何学的な構造を形成していました。まるで、生命の設計図の中に、別の設計図が埋め込まれているようでした。 私は徹夜で解析を進めました。何かが私を突き動かしていました。それは科学的な好奇心というより、父の影でした。父もまた、ノンコーディングDNAにこそ宇宙の真理が隠されていると信じ、その研究の末に不可解な事故で命を落としました。 私は、父が遺した最後の研究ファイルに手を伸ばしました。それは、従来の解析ツールでは検出できない「非線形パターン認識アルゴリズム」でした。周囲の同僚たちは、これを父の「オカルト的妄想」と見なしていましたが、今の私には試す価値があると思えました。 父のアルゴリズムを古代人のDNAパターンに適用すると、私の解析用モニターは激しく点滅しました。そして、ゆっくりと、しかし確実に、二次元の文字列が三次元の構造へと変換され始めたのです。 それは、ある特定の地形を模した、微細な立体地図でした。…